家族に電話されたくないのだろうか?
だったら無理やりするわけにもいかないし、しようにも澄野くんの家の電話番号なんて知らないからどっちみち電話は出来ない。
電話が出来ないにしろ、この状態の澄野くんを1人で返すわけにもいかない。
「よし、…じゃあ家の近くまで送って行く」
「…いえ、本当に大丈夫です。そこまで迷惑をかけるわけにはいかないので…」
聞き分けのいい子かと思いきや、意外と強情なタイプらしい。
いや、強情と言うよりは人に気を使いすぎるのかもしれない。
小さく息を吐いてから澄野くんを逃がすまいと、しっかりと手首を掴む。
澄野くんの体がビクッと震えたのが手から振動で伝わってくるが、離すつもりはない。
「…澄野くんの下ろして欲しいところで下ろすし、ご家族にも会わないから何も言わないよ」
レジの横の棚から可愛いウサギのストラップが付いた車の鍵を手にして、一方的に澄野くんの腕を掴み引っ張る形で店を出ていく。
もちろん澄野くんは病人だから強く引っ張ったりせずに、ゆっくりと歩いたつもりだったけど掴んだ手は痛かったかもしれない。
