「またおるねえ、あの子」




うるさい蝉の鳴き声に慣れてきた頃、突然聞こえた言葉にあの子とは恐らく彼の事だろうと、高を括って顔を上げる。



大きな四角い窓から見える海と道路の境目に立つ、コンクリートでできている大きな防波堤の上に座る黒髪の男の子の姿がそこにはあった。



あぁ、…確かにまた来てる。





「暑くないんやろか…?」

「さすがに、我慢できないくらい暑くなったら帰るんじゃないかな?」




だって、いつもそうだ。


しばらくの間ずっと同じ所で動きもせずに海か空か、その両方かを眺めた後に何事もなかったようにして帰っていく。



いつもと言っても、毎日来ているわけではない。3日に1回くらいのペースだが、それでも多い方だと思う。




もう数ヶ月くらいはあの後ろ姿を見ているから、私と叔母ちゃんにはすっかり慣れてしまいお馴染みの光景になっている。




今日はどうやら叔母ちゃんは一段と男の子が気になる日のようで、窓の外へと視線を向けたままテーブルを拭き続けている。