「また補習ぅ?」

放課後の薄く赤みがかった、2人きりの寂しい教室に呆れた声が響く。

「どうせ英語でしょ?」

「それ以外に何があるの…」

重々しいため息をついて、机に突っ伏す。

元々英語は苦手で、いつかどうにかしなくちゃ、とは思っていた。

でも、ついぞその『いつか』が来ることはなく、とうとう補習を受ける羽目になってしまった。

「奏音(かのん)はさ、ほかの教科はまあまあ出来るんだから、英語も頑張れば出来ると思うけどなぁ」

「そう簡単に言うけどさぁ、それは美冬(みふゆ)が頭良すぎるから言えることだよ?」

親友の美冬は常に学年上位の成績で、先生からの信頼も厚い。

できることなら、その優秀な頭の中を1回覗いてみたいぐらいだ。

見たからと言って、どうなるわけでもないけれど。

「まぁ、今日は諦めて補習を受けることだな」

白い歯を見せて明るく美冬が笑う。

その笑顔を憎らしげに見上げて、もう一度ため息をついた。

「もう、諦めなって。

ほら、そろそろ補習じゃないの?」

とんっと軽く背中を叩かれて時計に目をやると、4時5分前をさす針が見えた。

補習は4時から1時間。

重い腰を上げると、美冬のやっとやる気になったか、という顔が目の前にあった。

「…じゃあ、頑張ってくる」

気乗りしない気持ちを無理矢理曲げて、前向きな言葉を言う。

「ん、頑張ってきて」

重いスクールバックを持ち上げて、軽く手を振る美冬に手を振り返す。

教室を出ると、教室の中より廊下の方が少し夕日の赤が濃くなったような気がした。