あたたかい記憶。真っ白の部屋で、真っ白のベッドで、真っ白の毛布にくるまって、真っ白のカーテンの向こうからは真っ白な太陽の光が差し込んでいる。

「虚無から起きましょう。私が見守るから。」

新しい命が芽生えたとき、新しい意識が目を覚ます。穏やかな晴れた日の朝、リラの花散る六月。

「あなたは産まれたの。覚えてるわけないよね。まだ赤ちゃんだったもの。」
パチパチとオレンジ色に燃える暖炉のあかり。寒い寒い季節外れの寒い日に、二人は毛布にくるまって、優しい歌声を聞いた。それははるか昔に読んだ絵本のようで、あたたかくて、ぼんやりとしていて、内容すら覚えてないものの、幸せな記憶だけがある。

「命を繋ごうよ。」

私のママにはママがいて、そのママにもママがいて、じゃあ最初のママはだあれ?
細胞は覚えている。無意識の中に刻まれた記憶がある。それは全ての生命の先祖からずっと受け継がれている記憶。安心や不安。様々な恐怖症。同時多発的に各地で起こるシンクロニシティ現象。何かの拍子に記憶が呼び起こされてしまう集団ヒステリー。
人の起源も同じなら、核となる部分も皆共通であるはずだ。無意識の記憶を共有している。

「あなたの心を支えているのは、いつだって忘れた日々の空の光。」

「私がおうちに帰りたいと思うのはどうして?帰る場所なんかないのに。ただ漠然とした優しい雰囲気を求めた結果、過去を勝手に創作して、そこへ行こうとしてるってことかしら?」

「虚無から起きましょう。」

澪上法曲は鳴り続ける。
迷える子供のために。