坂木家の長男、坂木 涼空(さかぎ りく)には、13歳年下の妹、坂木 花乃(かの)がいる。
涼空は今、18歳。花乃は5歳だ。
母は毎朝起きるのがとても遅いので、涼空が父と花乃と自分の分の朝食を作っている。
この状況が染みついた今、最初は玉子焼きを作ることさえできなかった涼空だが、今では自分なりにレシピを考え、新しい家庭料理を生み出すほどになった。
今日の朝食はほとんど、昨日の晩の残り物。
涼空は炊きたてのお米を可愛らしい花柄の茶碗に装い、炊飯器の蓋をやや乱暴に閉じた。
同じく花柄の小さなお箸を取り、花柄でいっぱいの涼空は、いそいそとテーブルに向かう。
「花乃。ご飯食べるよー」
テーブルに花柄尽くしの茶碗とお箸をそっと置くと、テレビに見入っている花乃の背中に父が呼びかける。
「うわー!りーにいのごはんだ!」
花乃は勢いよく振り向き、パタパタとテーブルに向かった。
そして、ガタッと椅子を引き、よじ登る。
ちなみに「りーにい」とは涼空の事らしい。