チョークの音だけが響く教室に甲高い椅子の倒れる音が合わさる。

クラス中の視線を感じながらも私はその先生から目が離せずにいた。

「 …先生の顔をこの世の者じゃないみたいな目で凝視するのは辞めて下さいね、犬威さん」

その瞬間に笑いが巻き起こるのも何となく予想がついた。

どこかで聞いた事のある声。
冷たくて悲しいけど優しい声色。

——ああ、そうか。
この先生は昨日の…昨日、保健室で私の突き指の手当をしてくれた人だ。

「 すっ、すみません… 」

私は顔を真っ赤にしながら俯いて小さく呟き椅子に座り直す。

なんだかヘンだ、心臓がドキドキして…痛い。

橘花 悠 。
丁寧な字で書かれたその名前を私は無意識に机の上で指を使って書いていた。

ちゃんと敬語とか使えるんだ…昨日は崩れてたのに。

今日も昨日と同じ髪型だ…なんて、私だけが知ってる"昨日"の先生の顔を知れて少しだけ嬉しいような気もする。

「 はーい、じゃあウチからの質問。
センセは今彼女おるんー? 」

手を挙げながら質問するのは見なくても分かる…梢枝ちゃんだ。