未来が出ていったあと、残ったものたちは静寂に包まれた。
本当は、未来の内側にあるものと話さなければならなかったはずなのに、誰も動くことができなかった。
洸は立ち上がって部屋を出ていこうとした。
それを楓は止めた。
「どこにいくつもり?」
「決まっているだろ。」
楓の方を向いて洸は言った。
「未来を追いかける。」
「追いかけたところで何ができるの?」
「それは……!」
「いままで、そうやって追いかけてきたけれど、私たちは何もできなかった。」
楓の言葉に何も反応ができない。
これが、初めてではないから……。
何度も、訪れていることだから。
だからこそ……。
「だからこそ、追いかけないといけないと思う。」
そう言ったのは、慎だった。
「慎……?」
「どういうことか聞かせてくれ。」
「ちょっと洸!あなたまで何を……!」
「楓、話を聞くぐらいいいだろう?それとも、話を聞かないというのか?慎が俺たちに始めて意見を言おうとしているのに、それを聞く必要がないと?」
「そうは言ってないでしょ!」
「なら聞いても大丈夫だな。」
「……。」
「続けてくれ、慎。」
「うん、でも間違っているかもしれないけど。」
「お前が思ったことを言ってくれればいいんだ。それをみんなで考えればいい。」
「わかった。」
慎は深呼吸をして静かに考えを語りだした。
「今までは、追いかけないほうが正しいと思ってきたけど、それは違ってるような気がするんだ。具体的な理由はないけど、未来はいつも泣いていたと思うんだ。誰にも打ち明けられずにただ一人で泣いていたと思うから、ちゃんと話を聞かないといけないと思う。」
「慎の言いたいことはわかった。だが、具体的な案はあるのか?」
「あんまりない。一緒にいてあげるだけしか出来ないと思うし…。」
「いや、そうでもないと思うぞ。一緒にいることは大事だからな。」
「そんなの何の解決にもならないわ。」
楓は静かに反論の言葉を言い放った。
「そんなのが大事なわけないでしょ?いまは、未来が死なないように働きかける策が大事に決まっている。」
「そんな言い方ないだろ、楓!」
「洸は黙ってて!」
楓が慎に向き直って続けた。
「あなたの言いたいことは分かったわ、慎。でもいまじゃない。もっと後で考えればいいことよ。」
「もっと後っていつのこと?」
純粋な疑問を慎は聞いただけだった。
だがそれは、楓にとっては攻められてるような感じだった。
「いつってどのタイミングでってこと?」
「うん、あんまり先伸ばしにするのはよくないと思うから。」
「なにそれ……。じゃあ私の考えが間違ってるって言いたいの!?」
「そういう意味じゃないんだよ、楓さま。」
「じゃあ、どういう意味か教えてほしいわ!何もできない貴方が何を言えるの!?」
「それは……。」
「何も言えない貴方なんかに口出ししてほしくない!」
「楓!言いすぎだ!慎はお前を攻めてるんじゃない!」
「そんなこと…分かってるわよ!」
楓はそう言って部屋を飛び出した。
「慎、もうかえって大丈夫だ。あとは俺がなんとかするから。」
「うん…、わかった。」
そう言うと慎は部屋を出ていった。
部屋に一人となった洸は天を仰いだ。
誰も悪くはない、誰も悪くはなかったはずだ。
あの日のことになると、皆が悲しくなってしまうのはあの決断が間違っていたからなのだろうか…?だが、あれ以上の決断はあの時俺たちにはできなかった。
そう思っていたのに、なかなかにきつい。だが、もっときついのはきっと…あいつなのだろう…。
たった一人でいつも戦場を駆けていく彼女が辛かったのかと思うと、自分が卑怯に思えてくる。
本当は守りたかった。
たった一人の俺の王…。