今日、初恋はじめます。

本田君が去ったあと、しばらく茫然としていると、今度はアヤカが私の席に近寄ってきた。


「ねえねえ、今の本田君でしょ?もしかして、ジュンコ、本田君とそういう仲なの?すごいじゃん!」


そう、まくし立ててくる。


「いや、違うの。今朝、私、道で転んで、それで声かけてくれただけだから。それだけだから」


なんとか誤解をとく。


「でも、顔真っ赤だよ。それにしゃべり方もだいぶ、動揺してる」


アヤカはまるできく耳をもたない。


「ほんとに、それだけだから」


「でも、良かったじゃん!」


良かった??


なにがだろう。


「ジュンコにもやっと春が訪れたんだね」


春の訪れ。


この言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。


本田君にドキッとしてしまったのは事実だ。


「しかも、お相手があの本田君とはね。やるじゃん、ジュンコ」


本田君という名前をきいて、一瞬、脳裏に彼の顔が浮かぶ。


彼の、女子をとりこにするような顔が、浮かぶ。


授業開始を知らせるチャイムがすぐに鳴る。


「じゃあ、また後でー!」


なにやら、ニヤニヤしながらアヤカが去っていった。