アパートの階段を上がろうとして 遥は立ちどまった。
「よ!」
一樹がいた。
「何でここにいるの?」 「携帯番号もアドレスも変えてるから連絡着かないし。」
「貴方と連絡取りたくないからそうしたのよ。」 「遥さ俺とやりなおさないか?」
「はぁ?!」
一年前に言われてたらYesと応えていただろう。
「長野に帰るんだ。一緒に帰らないか?」
「ふざけないで」
「本気なんだけど」
「…貴方が言ったのよ。『お前と居てもつまらない』ってね。そしてあの娘と付き合ってるからもう別れようって」
「…俺さ、お前と別れて気がついたんだよ。お前ってさ、俺には1番向いてるんだよ。あの娘とは、すぐに別れたよ。本命は…遥だよ。忘れられないんだよ」
「やめてよ。随分勝手なのね」
「さっき車でKissしてた男、本気なの?こんな時間にお休みなんて、お前きっと遊ばれて…る」
「関係ないでしょ」
「遥」
「もう遅いの。二度と…」
「時間かけて考えてくれないか?」
「え」
一樹の真剣な様子にびっくり…だって一樹は、喧嘩しても遥に謝った事なんか一度もなかった。
「本当に悪かったって心の底から思ってるんだ。離れて解ったんだ。愛してる。遥とやり直したい。今度は、絶対に浮気なんかしない。幸せにするから。」
一樹から懐かしい香がした。付き合ってる頃遥が選んだ香水だった。

一樹とよくドライブした黒のクーペが向かいの駐車場に見えた。

ほんの一年前まで 何も疑い無く信じていた。きっと 好きだったはずなのに。でも遥は一樹に弟や両親の話なんかした事もなかった。 一樹は、何で今更…思い出がぎゅーっと胸を締め付ける。