すべての子供たちの試験が終わって、隣室で待っていたのはリルたちだけであった。
長と魔法使いたちは
「お待たせしてすみません」
女の魔法使いがそう切り出した。
「ご両親はすでにお分かりかと思いますが、リシェルは魔法使いです」

リルは驚きのあまり、女の魔法使いをまじまじと見てしまった。
「ご理解下さい。このままリシェルを街に暮らさせる事は出来ません…」

ミーナはぽろぽろと声もなく涙を流した。ぎゅうっとリルをきつくきつく抱き締める。
「娘に…これからも会うことは」
ウルドが震える声で尋ねた。
「……出来ません……。会える可能性があるのは彼女が独り立ちしてから偶然でもあればということです」
男の魔法使いがそう告げた。

「待ってください………せめて…あと一日だけでも…」
「出来ません…。お許しください」
男の魔法使いは目をそっと伏せた。

「リシェル、ご両親とお別れを」
女の魔法使いがそっと肩に手を置いて目線を合わせてくる。青い瞳がキレイでまっすぐにリルを見つめている。
「え?どうして?」
「あなたは私たちと行かなければならないの。ご両親とは暮らせないの」
「どうして?」
どうして、を繰り返してしまう。
「あなたには魔法の力があるの。それはある日突然暴走してしまって、他の人を傷つけるかもしれない。それでもいいの?」
リルは首をふった
「6歳を過ぎると、魔法はどんどん強くなると言われているわ。明日そうなるかもしれない。だから待てないのよ」

声もなく震えるウルドとミーナがきつくきつくリルを抱き締めた。
「………ふぇ…」
リルはぽろぽろと泣いた。

行きたくなんてないよ!

と心は叫んでいた。だけど、自分のせいで誰かを傷つけるなんて耐えられない。

行かなくちゃ…。

「とうさま、かあさまリルはいくね………」
ぐしぐしと涙を手の甲で拭いて、リルは泣いている両親をみた。
お別れなのに、涙で滲んでよく見えない。

魔法使いに手を引かれて長の家から外に出ると、空にはまた降りてきていた竜が旋回していて、魔法使いたちが外に出るのを見ると庭に降りてきて翼を畳む。
竜の背につけられた鞍に女の魔法使いと共に乗ったリルは、空を翔る竜の背中から、生まれ育った街を…小さくなっていくマルルートを見ながら去っていった。

「思いきり泣いていいよリル」
「えっとまほうつかいさん……」
「アデルよ」
「アデルさん…。もこんなふうにおわかれしたの?」
「そうね…あなたと同じ年に」
そっと撫でられて、リルはまた泣いた。

泣いて泣いて………そのまま、男の魔法使いに抱っこされてリルはお城に着いた。
「きようからここでくらすの?」
「違うよ、リルはこれから村に行くんだ。魔法使いの住む村だ。そこにはリルと同じ魔法使いの子供たちがいるよ」
男の魔法使い、アルジーが言った。
「今日はこれから魔法使いの長に会って、それから村に向かうよ」

魔法使いたちはみんなアデルとアルジーと同じ黒い服であちこちを歩いていた。
奥まった部屋に向かうと部屋のなかには、同じく魔法使いの服装をした男性がいた。長い黒髪を一つに束ね、青緑の瞳が不思議な色合いで、穏やかな顔をしている。
「長、見つけました。リシェル・クロイツェルです。リルと呼ばれているようです」
「こんばんは、リル。僕が魔法使いの長のダガーだよ。突然でびっくりしただろう?」
リルはこくんと頷いてはい、と返事をした。
ダガーの前のソファに座らされると、リルはそのふかふかな椅子に驚いた。

「リシェル・クロイツェルで、リルって呼ばれてたんだね?」
「はい」
「石は、白と紫か…」
ダガーは少し目を細めてリルを見つめると
「うん。じゃあ今日から君の名前は……リシェル・リーナ・エーメ・クロイツェル」
「なまえがかわるの…?」
「そう…魔法使いの名前だよ。けれど、普段の呼び名はリルのまま。簡単だろう?とっておきの時だけこの名前が必要なんだ」

「リシェル・リーナ・エーメ・クロイツェル」

確かめるようにそう言うと、複雑な文字がふわりとリルを取り巻いてそしてすうっと溶け込むように消えていった。
「リル、君は家族と離れなければならなかった。けれどね、今日からは僕たち魔法使いはみんな君の仲間で家族だよ」
にこっとダガーが微笑んだ。
寂しがらなくて良いんだよ。と言われているとリルは感じて、こくんと頷いた。
「じゃあ、アデルとアルジー。くれぐれもよろしく」
「わかりました」
アデルとアルジーはダガーにお辞儀をするとリルを抱き上げて、また竜に乗りに向かう。

「どこにいくの?」
「さっき話した魔法使いの村に行くんだよ」