桜時雨の降る頃



陽斗がタコ焼きやカキ氷を手にして戻ってきたのが見えたとき

階段横の草っ原に座っていた朔斗が立ち上がって、わたしにボソっと言葉を落とす。


「お前、陽斗以外の男を選ぶなよ」


「えっ……」


「陽斗じゃなきゃ意味がない」


何それ、と口を開きかけたところで


陽斗が「結構混んでて遅くなった〜」とわたし達の目の前にレジ袋を掲げる。


「お疲れ。先に食ってて。俺も行ってくる」


ポン、と陽斗の肩に手を置いてから

さくさくと屋台が並ぶ方角へ歩いていってしまった。



「雫、タコ焼き。はい」


パックを開けて渡してくれたそれは、まだ熱くて思わず取り落としてしまいそうになった。


「あちちっ! まだ食べれなそう」

ふーふー、と一つ楊枝で刺して息を吹きかける。


「よくヤケドするよな、それ」

ははっと笑って陽斗は、元通りわたしの一段下の階段に腰を降ろした。