桜時雨の降る頃



「俺は陽斗を止められない。ずっとあいつの気持ち知ってたし、それなのに……

お前にキスした」



「…………覚えてたの」


「バカか。さすがに忘れるほど非道じゃねーよ。……2人にひでぇことしたとは思ってるけど」


苦笑を滲ませる朔斗の横顔に胸がツキンと痛む。


あのキス。

わたしにとっては、あんなのでも忘れられないものだった。

なかったことにしてるみたいに振舞っていても

心のどこかにこびりついて離れなかった。


朔斗の中でも、そうだったのかな。
それは、後悔なのかな……


「あいつはきっと、3人でいたいっていう気持ちと雫を手に入れたいって気持ちに挟まれて、ずっと我慢してきたはずだ。

お前を大事にしてくれるのは、あいつしかいない」



「……朔斗には他に大事にしたい人がいるの?」


こういう時ばかり、いつも陽斗のことを考えてる朔斗。

なんだかんだ言ってても、陽斗の気持ちを常に優先してる。

不器用な優しさを持つ、お兄ちゃんであろうとする。

だから時々、心配だった。
自分の気持ちを疎かにしてないかって。