桜時雨の降る頃



好きな人ーーーー


一瞬、意地悪そうに笑うヤツの顔が頭に浮かぶ。

けど、慌てて打ち消した。

朔斗を好きだと思ってたのはもう、昔のことだ。


「陽斗くんは、たぶん、待ってるんだと思うよ。雫ちゃんが男として見てくれるのを。ただの幼なじみから変わるのを」


「わたし次第ってことですか?」

「きっとね」

にこっと笑う先輩を見ていると、不思議と心の整理がついていく気がした。


「どうしても駄目ならしょうがないけど、雫ちゃんのために我慢してる陽斗くん見てると、こっちが苦しくなっちゃう。
……解放、してあげて」


「先輩、まだ好きなんじゃ」


「やだ、違うよー。私はもう違う人に目を向けてるもん。ただ、陽斗くんの気持ちが見えてきちゃって焦れったいだけ! お節介でごめんね」



あはは、と笑い飛ばしていたけれど
先輩はきっと陽斗をまだどこか想っていたんじゃないかと思う。

見ていなければ、陽斗の気持ちを知って苦しくなるなんて、ないはずだから。