桜時雨の降る頃

部屋に入る一歩手前で、ピタリと朔斗が止まった。


クルリとわたしの方へ向き直り、真剣な表情で話し出す。


「……部屋、見るの辛いかもしれない。

けど、俺が側にいるから。やっぱり見たくないってキツくなったら言えよ。
無理させたいわけじゃないんだ」


きっと朔斗もずっと辛かったのかもしれない。

同じ部屋で、1人で過ごすことが……

想像したら、わたしなら家を飛び出してるかもしれないと思った。


見るのは怖い。

怖いけれど、陽斗がわたしに伝えたかったことが何なのか知りたい。


「……わかった。

ごめん、朔斗。手だけ…」


繋いでて、と言う前に

朔斗はわたしの手を取ってギュッと握った。


「入るぞ」

朔斗の声と共に、扉がキィ、と音を立てて開けられる。



中からは、やはり懐かしい匂いが洩れてくる。


陽斗はもういないのに、どうして残っているんだろうと不思議になる。


…あぁ、そうか。

この香りは2人とも好んでつけていた香水の香りだ。

性格は正反対でも、そういう基本的な好みはわりと同じだった。