ザワザワと風が吹き、辺りの桜の枝がしなる。

わたしがさっきまでいた場所じゃなくて

ここは…………


そこまで考えていたとき、陽斗がようやく口を開き始めた。



『いつか分かる時が来ると思う。
でも、これだけは信じて。

俺は雫を誰にも渡したくないくらい、好きだった。

かけがえのない存在だったから、失いたくなかった』



なんで?

どうして、過去形で言うの?


そのことにまた胸が騒ぎ出して涙腺が緩み始める。


「やだよ、陽斗…………

わたしは陽斗の傍にいるよ?なんでそんなこと言うの?」


陽斗がこの場からいなくなってしまうような不安感に襲われて、わたしは陽斗の袖を掴む。


『…………うん、そうだな。

俺、ずっと雫の傍にいるから。

何年経ってもきっと。雫が俺を忘れないでいてくれれば』


「何言って…」

忘れるわけないじゃない。
傍にいるのに。

『大好きだよ、雫。
俺の兄貴、よろしくな?』