桜時雨の降る頃

雫も俺の瞳をじっと見つめていて

逸らせなくて

腕の中にいる雫の鼓動と、俺の鼓動が混ざって聴こえてきそうなくらい静かな中

一瞬の熱に侵された俺は、

衝動的に雫の唇に触れてしまった。


初めて重ねた、雫の唇。
何でか甘い香りがした。

そしてその香りに目を覚まされた俺は、瞬時に唇を離した。




ーーーー信じられねぇ。

俺が、こんなこと雫に仕出かすなんて。


「なっ……にしてんだ俺……」

思わずそう呻いた。


雫は何が起こったのか分からない、というように呆然と俺を見つめていた。



「悪い。……忘れて」


動揺のあまり、雫の気持ちも考えず身勝手なことを言った俺に、雫は相当頭に来たんだろう。

バシッと思い切り頬を叩かれた。




「忘れろ、ばっかり! もう知らない、朔斗のバカ!!」


ボロボロと両目から大きな涙の粒を零して

雫はダンダン、と足を踏み鳴らして階段を一挙に駆け下りていくのを俺は追いかけられず
茫然と見送った。