桜時雨の降る頃

俺は、雫を泣き止ませてやったことなんてない。それはいつも陽斗の役目だった。

苛めて泣かせるのが俺だ。

でも、俺ではない誰かに泣かされた時には
俺は必ず仕返しをしてやっていた。

優しく慰めるなんて手段が俺には取れなかったから。

なのに今、俺は。

思わず、ふー、と長い息を吐いた後

しばらく俺の胸に寄りかかったままだった
雫が沈黙を破ってようやく口を開いた。



「朔斗は、ずるいね」


「……あ?」

ズルい?

「そうやって、わたしには優しいとか。みんなには冷たいのに」


「…………」


そういえば、そう……なのか?

考えて行動していたわけじゃない。
視線を彷徨わせてしまった。


「陽斗のことも。まるで自分は関係ないみたいな」


「……それは」


俺は、俺の気持ちを外に出したくなかった。
雫にそのことが伝わってしまったんだ。


「わたしの気持ちはどうでもいいの?」


……どうでもいいわけ、ない。

ただ、最優先したい気持ちがあるだけだ。
それが単なる自己満足かもしれないってことは承知していたけど。


「俺には、
……陽斗と雫は特別だから。
雫の気持ちも大事だけど、同じくらい陽斗の気持ちも大事なんだよ」


俺の答えはこれに尽きる。

俺の気持ちと陽斗の気持ちなんて、比べる必要もない。


「……わたしも同じだよ。陽斗も朔斗も、大事だよ」


雫の答えに、胸がギュッと掴まれるような思いがした。


雫に、自分の気持ちを蔑ろにしてるんじゃないのかと暗に言われたような気がしたからだ。