桜時雨の降る頃


それでも、雫は顔を上げずに黙ったままだった。

本当にどうしたんだ?


「おい」

妙に焦って思わず雫の手首を掴んで立ち上がった。

けど、俺が急に引っ張ったせいで雫は体勢のバランスを崩した。

倒れそうになる雫をとっさに身体ごと抱きとめる。


「あっぶね。わりぃ、大丈夫か?」

「う、うん。 わたしこそごめん」

ふわっと雫の髪のいい香りが鼻をくすぐる。

手首も、思ったより細い。

当たり前だけど、男の俺とは違う……

スローモーションのように雫の動作を追っているとドクン、と俺の胸が脈打った。


ーーーー泣いてる?


雫の目元に、涙が滲んだような跡。

どういうことだ?


俺に気付かれたと思ったのか、雫は俺からすぐ離れようと身を捻った。

でも、俺はそれを許さずにもう一度手首を掴んだ。



「……おい」


「……もう寝よっか! いい加減寝ないと寝不足で明日辛いもんね」

明らかな話題拒否。

ここで流されてやればよかったのかもしれないが、俺はそれが出来ないくらい、狼狽えていた。


「雫!」

少し強い語調で部屋へ帰ろうとする雫を止める。

「誤魔化すな。……なんで泣いてんだよ」