桜時雨の降る頃

恋を知らない?

いや…………


「…………知らなくはない」


雫に恋を知らないなんて言われるのは屈辱的、というのもあって
俺は言うつもりのなかったことを口から滑らせてしまう。

それでも気まずい思いはあったから、自然と声が小さくなってしまい、

「は?」


と訊き返されたので、俺は一呼吸置いてから
はっきりと告げた。






「俺の初恋、お前」



「…………」



信じられない、といったように目が見開かれ
雫は言葉を発さないまま俺を見つめた。





「じょ、冗談でしょ? すぐ人のことからかって……」


「そう思いたきゃそれでもいいよ」


溜息を吐きながら、俺は膝の上で頬杖をついた。
まぁ、そう思われるのは分かりきってたし。


「いつ……?」


掠れる声で、抑揚なく訊いてくる。


「小6?」


考えたこともなかっただろうな。
今更、ヘタに意識させたくないし
この話題はもう触れないようにしないと。


照れ隠しもあって、俺はぶっきらぼうに続けた。


「あーあ、言うつもりなかったんだけどな。
なんか雰囲気に呑まれた。

忘れろよ、今の。今すぐ」