桜時雨の降る頃


階段に腰を落ち着かせた俺たちは、喋りを再開させた。


自由行動の間、俺を見かけなかったっていう雫に理由を説明した後、

俺は今日寝れなくなってる要因である騒動について切り込んだ。あくまで明るく。


「お前は陽斗とデートしてたんだって?

すんげー噂になってたな。陽斗もツメが甘いよなぁ」

目をパチクリさせながら雫が答える。


「……ツメが甘いとかいう問題じゃ」


「いや、そこまで考えてなかったんだろ。お前を喜ばせたかっただけだろうから」


笑顔を見たかったんだ、きっと。


後先のことなんて考えずに。




そこまで言って、雫の目が点になってることに気付き、俺はじっと見つめた。


俺はなんとなく陽斗の気持ちに気付いたけど

結局本人からそうと聞いたわけではない。


それでも、雫に向けられる陽斗の優しさが
他の女とは違うってことを
この時無性に雫に教えてやりたくなった。