桜時雨の降る頃

しばらく手すりに寄りかかってボーッとしていると、下の方からカラカラ、と戸を開ける音が聴こえた。


音がした方へ視線を向けると、斜め下のバルコニーにもたれかかる見覚えある頭。

暗いけど、うっすら灯りがついてるおかげで分かった。


「あれ?」


声をかけて振り向いたのは、

やっぱり雫だった。


寝れなくて、とかお互い言い訳を始めた後は
沈黙が落ちた。


いつもやかましいくらい言い合いをする俺たちには珍しい。


修学旅行っていう非日常と、この微妙な距離感がそうさせたんだろうか。


もう少し近くにいないと喋りづらいと思った俺は、場所を移そうと提案した。


階段の踊り場。

そこへ行く前に、俺は土産があるのを思い出してそれをポケットの中へ入れた。



それが雫を泣かせる一因になるなんて
これっぽっちも思わずに。