──俺が、マネージャーと初めて会ったのは、入学して間もない頃だった。


「ねぇねぇ、そこのあなた! 部活決まってる?」


 誰かに後ろから話しかけられた。

 このパターンは、また勧誘か。これで何人目だよ? みんなよっぽど、俺が運動しそうに見えるんだな。けど残念でした。部活なんてヤル気ゼロだから。運動部なら尚更だ。

 今度はどこの部だろ? とっとと断って早く帰ろう。

 怪訝な表情にして振り返ると──

 俺は、一瞬にして固まった。

 な……なんだ、この人。

 そこにいたのは、ジャージ姿の華奢な女子で、先輩らしき人だった。


 ふわりと柔らかそうな髪質をしたミディアムヘア。

 キラキラした黒い瞳。

 それでいて、無邪気にニコニコと微笑んでくる。


 ヤバ。一気に引き込まれた。


「背、高いねー。元・バスケ部でしょ?」

「いや、元・放送部です」


 しかも、幽霊部員です。中学は部活に入らないといけなかったので、仕方なく……なんて、こんな人にそんな言い訳したらカッコ悪い気がして、なんとなく出来なかった。


「え、うそでしょ? その体格で放送部? やだぁ、そんなの勿体なさすぎー!
 あなたは絶対バスケに向いているって!」


 バスケ部だぁ?

 バスケなんてこれっぽっちも興味ない……ハズだったのに、この人の言うことがやたらと胸に響く。

 さっきから俺の心境、いつもと違う感じがする。


「あ。ごめんなさい、申し遅れました。私、バスケ部のマネージャーをしてます、二年の間宮実里です。あなたは?」

「中村……豊(ゆたか)です」

「中村君か。よろしくね!」


 よ……よろしく?


「いや、まだ決めたワケじゃっ……」

「いいからいいから! 試しに来てやってみようよ! ね? ね?」


 ますます目を輝かせてくる。

 こんなの……どうやって断ればいいんだよー。

 結局、俺は──


「は……はぁ。じゃあ、ちょっとだけ……」

「やった! はい、一名様ご案内ー!」


 この、キラキラした押しに……負けた。



 ──こうしてマネージャーは、物事に淡白だった俺に、

 バスケの楽しさと、

 本気で恋をする、ということを与えてくれた。

 一個上の先輩なのに、どこか放っておけない部分もあったりして、何というか……可愛らしくて。



 だから俺は

 マネージャーが好きだ。