それから頻繁にワインバーへと足を運んだ。その目的は美味しいワインと言うよりは彼女に会うためだったが、よく目にするのは男の方だった。

男は相変わらず暗めな服を着て、静にカウンターに佇んでいた。

それでもたまに、運良く彼女に会える日もあった。
彼女はいつも違う服を着て、高すぎるヒールをなんの違和感なく履きこなし、颯爽と現れた。

「遅かったね」
「学会に呼ばれて、そのまま捕まったの」

彼女の職業は歯医者とわかった。
その医院は有名人も通っているという有名な医院で、彼女は経営にも携わっているという。

彼女の情報を知る度に、驚かされた。こんなにも絵に描いたような都会的な女性は初めてだなというのが感想で。
職業歯医者、趣味は乗馬。そんな女性が現実にいてたまるかと思ったのが正直なところだった。

「今度ジムに通うことにしたの」
「やっと自覚したの?運動不足」
「何故だか君に言われるとイラっとするわ」
「俺は運動してるよ」
「三駅分歩いてるだけでしょ」
「それでも立派な運動でしょ」

二人はよく似ていた。口調に間の取り方、丁寧で静かな所作。姉弟なのかと思うこともあった。
男の地味な服装と彼女の洗練された服装は対極だったが、二人の波長は綺麗に重なっていた。