「・・・はい、ありがとうございます」
聞こえるかわからない小声でぼそりとつぶやいたのに
彼は「それでよろしい」と満足げに笑った。
なぜだかふわりと心が温かくなった気がした。
「てか、お前どこに住んでるの?」
「あ、えっと〇✕に住んでます。」
「は?!こっから電車で40分くらいかかるじゃねーか。
もう終電ないぞ?!」
どーするつもりだったんだよ?
彼は驚きながら言葉を続けた。
「いや、朝まで呑んでようかなって・・・」
「なんか嫌なことでもあったんか?今、顔が曇ったぞ」
「い、いや特にそういうわけじゃ・・・」
「へー・・・」
彼は一瞬黙り込むと
「20だしいいんかな・・・
・・・・お前・・・・俺んちくる?」
と顔を覗き込んできた。
「え・・・」
「いや、下心とかじゃなくてあぶねーだろ。
こんな時間に、20の女が一人で。
いや、20に見えねーけど・・・。
だからこそあぶねーんだけどさ・・・。」
いや、あなたも十分危ないでしょう・・・。
なんて言葉は飲み込んだ。
「いや、カラオケとかネカフェで時間つぶすし大丈夫ですよ。」
うん、この辺は都会だしなんでもあるし・・・。
「散々吐きまくってそれで帰れるんか?
俺んちすぐそこだよ?
風呂でも入ってけば?」
「・・・」
「いや、いいならいいんだけどさ
とりあえず連絡先教えろ。
何かあったら連絡してこい」
彼はわたしの携帯をパッととると打ち込んで「ほら」と渡してきた。
携帯の画面には坪倉浩太と登録されていた。
「今一回かけてみろ。ほら。」
「いや、でも・・・」
「警戒するなよ、苗字まで教えただろ。」
