「そこまでして食いたいぐらい、美味しいんだよ。ほら、早く歩け。」


囚人を自分の前で歩かせる。


「いいのか?こんなんだったら俺すぐ逃げるぞ。」


「特に行きたい場所もないだろう?」


「食堂」


「そこに今から行くんだよ。ほら歩け歩け。」


囚人をせかしながら歩いていると、前に美久と五十五番(リサ)が歩いているのが見えた。


「あっ!リサ!」


「リサ兄!」


囚人二人が五十五番のところへ走っていく。


「あっ、お前ら…、はあ…」


六十三番のリードをしっかり掴んでおくんだった。


「よっ!さっきぶりだな。」


「ん、いいのかよ、囚人あんなに甘やかして。」


俺たちの目の前には笑顔の囚人たち。


「それはお前もだろ。あれでもたくさん我慢させているんだ。本当はいいやつなんだ。だから、せめて笑っていてほしいんだよ…あいつには」


美久の顔は少し悲しそうに見えた。


美久は優しいからな。それがいいところであり、悪いところなんだけど。


「お前は優しいんだな。」


「ふふん、少なくともお前よりは優しいかな!」


可愛くドヤ顔をきめる美久。


「なーに調子のってんだよ。」


コツンと美久の頭をぶつ。


「なにするんだよ〜。」


二人でじゃれあっていると、


「美久ちゃーん!」
「健太ー!」


どうやらいつの間にか食堂に着いていたらしい。


「お、名無しさーん、定食五人分よろしくー」


「あと一分遅かったら頼めないところでしたよ?先輩。」


「俺たちいろいろあって遅くなったんだよ。」


「そうなんですか。あ、はい、定食五人前です。」


「わー、美味しそう!」


五十四番が目を輝かしている。


「うっ…ピーマンがある。」


「清人には私がアーンして食べさせてあげるからピーマンも食べれるよ!」


「うー」


いちゃいちゃしている囚人は放っておいて、空いているテーブルに座る。


六十三番は柱にリードを繋いでいるから逃げられないし、暴れられない。


今日も平和に過ごせそうだな


このまま、なにもなければいいのに


でも、


そういうわけにも、いかないんだなー


何か


異様な空気が漂うこの刑務所で


また事件が起こる…