「ラスト1周ー!ペース上げろ!」
鬼顧問の声がグラウンドに響く。
私はぐらついた体勢を立て直し、呼吸を整えながらペースを上げる。
1歩。1歩。また1歩 ──。
足が地面を蹴りあげる度、目の前の景色が広がって見える。
この瞬間がいちばん好きだ。
「長谷川ー!お前もっと上げられるだろ!」
(もっと上げろ?あんたは鬼か!私、これでも精一杯なんですけど?)
内心、毒づきながらも私は走り続ける。
横で試合をしているサッカー部の声。
体育館から聞こえるシューズの鳴る音。
遠くで微かに聞こえる吹奏楽部の演奏。
全てが心地よく聞こえて──。
コーナーを曲がりきる。
もう少し、もう少し、もう少し───。
「あ、危ないっ!!」
突然、背中に衝撃が走った。
目の前の景色がぐらついて、落ちていく。
落ちていく──落ちていく──。
「ごめん!だいじょーぶ?」
近くで聞こえる優しい声。
目を開けると、そこには君がいた。
サッカーボールを片手に心配そうな顔で。
「ほんと、ごめん。俺のせいでボール当てち
ゃって、ケガ・・・ない?」
目が合って、君は少し微笑む。
「う、うん。だいじょーぶ。」
その瞬間 ──。
私は生まれて初めて恋に落ちた ──。