「ロイ…っ」



ここが回転木馬だということも忘れ、私は君の名を呼んだ。


呼ばずにはいられない。


遊園地が作りだす夢物語の中の幻だと、わかっていても。





『ソラ、君は優しいね。


こんな僕なんかにも光を与えてくれる……』




ロイの消え入りそうな声。
胸を締め付けるような切ない響き。




「当たり前っ。そんなの当たり前だよ。

友達だもん。


だからそんな哀しいこと言わないでよ……お願い」





私の気持ちとは裏腹に、徐々に爪先の方から透けていくロイを模した“幻”。

光の粒子となって、月夜の生み出した闇に一瞬にして溶けて消える。





ああ
幻なんだ…。


月が見せる夢の幻想。




幻だとわかっていた。
ここは白い箱庭じゃない、鳥籠の中の君がいるわけないのに。







じゃあ…
この虚しさはなんだろう?


本当に君を…ロイを失ってしまったような、そんな喪失感。






「――私にとっての光は君なのに…」




溢れた涙。
滲んだ景色。



頬を伝う温かい雫は、白い木馬のたてがみへ零れ落ちる。



“最近私、泣いてばっかだ”


心の中で自分に悪態をつき、木馬にもたれる。


木で出来た、血の通わないはずの木馬が何故か、ほんのり温かい。



木馬の優しく不思議な温もりが心地よくて、私は些か腫れた瞼を閉じて耳を澄ました。




賑やかで懐かしい旋律。
いつかどこかで聴いたような、そんな……。







ぐるぐると廻っていた景色はやがて本来の姿を取り戻しつつある。



次第にゆっくりとした動きになっていく回転木馬。


眠くなりそうなほどスローテンポな木馬の駆け足の揺れ。



夢現。