「……なんかごめん。

気を取り直してほら、お喋りしよう」



私の言葉にゼロは顔を上げる。
ぱっと明るい表情。

驚くべき切り替えの早さに些か私は感動してしまった。





「いいよ、気にしてない気にしてないっ。


紅茶のミルクと砂糖はお好みでどうぞ。

さぁ、召し上がれー」



私の前に紅茶とケーキを並べ、ゼロは満面の笑み。私から目を反らさない。




見られていると飲みにくいんだけど…。



少し緊張しつつ、私は砂糖を適量紅茶に入れた。


甘過ぎるのは嫌い。


微調整を繰り返し、自分の納得のいく甘さに仕上げて一口。






口の中いっぱいに広がる紅茶のいい薫り。



「美味しい」


私の感想にゼロは頬笑む。照れくさそうに右頬を掻いた。





「そういや、今日は何しに来たの?

調べ物か何か?」




フォークでさした苺を眺めながらゼロは私に尋ねる。



「――私、友達の鍵を探してるんだ。

今手掛かりが何もなくて、此処なら何か見つかるかなって…」




“鳥籠の鍵”というのはさすがにまずいだろう。

あえての曖昧な表現。



“白い箱庭”、“ロイ”、“鳥籠”などという危険ワードは避けた。





「友達の鍵……?
ああ、家の鍵のことか。


大変だなー、その友達。
家入れないじゃん」




私の足らない説明に、ゼロは取り違えた様子。



“入れないんじゃない。出られないんだよ…”


心の中で指摘しながら、私は一応笑っておいた。




このまま話をしていて、ゼロにロイのことをばらしても大丈夫だと思ったらありのままに話そう。





私は苺ののったケーキに手をつける。


ゼロの誕生日ケーキ…。




苺の甘酸っぱさが口に広がった。