「えー、来週の野外活動の班が決まった。今から読み上げるからよく聞いとけよ…」
一週間前、担任の楠原が言っていたことを思い出す。
「…3班は、深澤皐、安達星花、藤崎陸、宮野歩美。4班は…」
それを聞いた時は、本当に楠原を殴りそうだった。
なんで超病んでる深澤くんと、なんでギャルの安達さんと、なんでガリ勉委員長の藤崎と同じ班なんだよ!!
どーせ友達いないし誰となっても一緒か、と思ってたけど、これは無い。マジで無い。
キャラ濃すぎでしょ、ねぇ!!
病んでるじゃん、ギャルじゃん、天才じゃん?!
どーすればいいのよ私は!!
頭の中で楠原を責めながら怒り任せに歩いていると、あっという間に学校についてしまった。
駐車場には観光バスが3台並んでいて、その後ろにはもう半分くらいの人がいた。
少し早めに家を出たのでまだ来てる人は少ないかなと思っていたので少し驚いた。
私はC組なので、3号車の後ろに行く。
「あ~宮野ちゃん来たよぉ~!おはよぉ~!」
ぐりんぐりんに髪をまいた安達さんが私を指さして叫んだ。
その周りには、深澤くんも藤崎もいる。
私が最後かい!まだ集合時間まで10分あんのに!
なんか情けない…
「お、おはよう…。みんな早いね…」
「委員長わ、さっき来たんだよ~!星花達わー、集合時間1時間間違えててぇ、1時間待ってたのー!ヤバくない?マジで萎えたー!」
そう言って安達さんはケタケタと笑った。
まあ、そうだろうな…この人がわざと早く来るわけ無いもんな…はは…
「君たち、野外活動のしおりはもってきたか?」
藤崎がいきなり聞いてきた。
「うん」
「了解。」
私はポケットに入ってるから大丈夫。
問題はあとの2人…
「ん」
うわぁ…
深澤くんがリュックから取り出したしおりは、文字の部分がペンで赤く塗りつぶされていた。
しかしそんなことを気にしているのは私だけのようで、藤崎は「了解。」と冷静に返しているし、安達さんは未だ見つからないのかキラキラと光るピンクのリュックのなかをかき回している。
しばらくして、安達さんが手を動かすのをやめた。
リュックのチャックを閉め、背負い直す。
あったのかな?と思ったら、やはり違った。
「委員長、ない!」
満面の笑みで委員長に宣言する。
もうちょい慌てたらどうなんだか、と思いつつ藤崎の方を見ると、相変わらずの真顔。怒ってんのかな?
「了解。」
えええええええ!!!
そんだけ?!
きちんと持ってきた私と同じ返事!!
やっぱこの人たちどうかしてる…泣
そんなアホみたいなやり取りを眺めているうち、出発時間となった。
私達はぞろぞろとバスに乗り込む。
私は3列目の右の窓側の席。
藤崎の隣…。
最初は想像してた通り、どちらも何も話さず、黙っていた。
けどだんだんこっちがしんどくなってきて、私はカーテンと窓の間に頭を突っ込み、藤崎とのあいだを完全にシャウトした。
流れてゆく景色を眺めていたら、今朝のことを思い出した。

私の家族は、おばあちゃんしかいない。
私の両親は、私が小さい頃に事故で死んだから。
兄弟はもともといない。
両親とも一人っ子だったから、従兄弟もいない。
おじいちゃんは数年前に他界。
もちろん遠縁の親戚はいるけど、会ったことはない。
てことで、私の家族はおばあちゃんだけなのだ。
おばあちゃんはとても美味しいご飯を作ってくれて、欲しいものはできる限り買ってくれて、昔から親も友達もいない私はおばあちゃんが大好きだった。
私はそんなおばあちゃんを心配させたくなくて、学校にはたくさん友達がいて、とても楽しい日々を送っている、と嘘をついた。
小さい頃はそれで良かった。
「今度お友達をお家に連れておいで」などと言われた時は胸が痛かったけど、「うん、そうする」と返事が出来た。
でも絶賛反抗期中の今は、自分でつき始めた嘘なのに、騙されているおばあちゃんが許せなくなってきていた。
おばあちゃんの言葉を無視することも多くなった。
でもおばあちゃんはめげずに話しかけ続けてくれた。
「今日の晩ごはん何がいい?」「歩美が好きな本の続編、買ってきたよ」「今月は歩美、テスト勉強頑張ってたから、お小遣い多めにあげるね」…
だんだん、おばあちゃんに申し訳なくなってきた。
けど。今朝はどうしても許せなかった。
おばあちゃん、それだけは言っちゃいけなかったんだ。
「なんにも分かってねぇくせに…」
すれ違いざまに道路脇の並木に向かって吐き捨てる。
木々は一瞬で見えなくなった。