「――そうよ、もう私には邪魔をする人はいないの」

シャワーを浴びながら、鏡の前で安里は呟いた。

化粧をして制服を着崩して学校へ行く安里を両親はとがめなかった。

夜遅くに帰ってきても、外で好きなものを食べても、両親は何も言わなかった。

高校を卒業して上京すると、大学の入学式に着て行くためのスーツを買った。

スーツは人気急上昇中のモデルがデザインした、紺のストライプが入ったパンツスーツである。

それまで黒かった髪を明るい茶色に染めてパーマをかけて、耳にピアスを開けた。

大学に入学したら友達がたくさんできたうえに、津田にも出会えた。

自分好みのかわいい服に、素敵なデザインのランジェリー、美味しい食べ物と今は何もかも全てが簡単に手に入る。

行きたいところにだって行けるのだ。

もう自分は2度とつらくて苦しい思いをしなくていいのだ。

ピンポーン

そう思った時、玄関でチャイムが鳴った。