「安里のところはいいよねー。

洋服とかアクセサリーとか、安里が欲しいと言えばパパが全部買ってくれるんでしょ?

うらやましいなー、あたしもお金持ちのお嬢様に生まれたかったなー」

あーあと、美紀は息を吐いた。

「…まあね」

安里は適当に返事をした。

(本当の“パパ”なんかじゃないんだけどね…)

心の中でそう呟いたら、チャイムが鳴った。

「はい、授業を始めるぞー」

同時に教授が大講義室に入ってきた。

安里はスマートフォンをカバンの中に入れると、そこから筆記用具と教科書とルーズリーフを取り出した。

「それでは、教科書70ページを開いてください。

本日の授業は…」

授業が始まったので、安里はそちらの方に神経を集中させた。

(私はもうあの頃の私じゃないんだから…)

安里は自分に言い聞かせた。