あれだけ厳しかった夏の太陽は今は終わり、代わりに秋を予感させる涼しい風が吹いてきた。

大講義室の大半は、すでに多くの生徒たちによって埋まっていた。

授業開始を告げるチャイムを待っている間、金子安里(カネコアンリ)はスマートフォンをいじって時間を潰していた。

「おっ、ミスドの新作が出てる。

今日の帰りに早速食べに行こうかな」

学校終わりの楽しみができたことを嬉しく思っていたら、
「安里、おはよう」

その声に視線を向けると、親友の大野美紀(オオノミキ)だった。

彼女は1年生の時の必修科目だった英語の授業が一緒だったことから仲良くなった。

「おはよう、美紀」

安里はスマートフォンから顔をあげると、美紀にあいさつをした。

美紀は安里の隣に腰を下ろすと、
「あれ、そのピアスって…?」

安里が耳につけているピアスを指差した。