「トラブルは何も起きなかったみたいでよかったわね」

そう言った由紀恵に、
「まあ、そうですね…」

幸代は苦笑いをしながら言った。

（まあ、何も知らないならいいか）

幸代はひと通りの出来事を見ていたことや小夜子たちから聞いていたこともあって、だいたいのことは知っている。

普段から社長室に引きこもっている由紀恵は何も知らなくてよかったと、幸代は心の底から思った。

「あの、１つだけ聞いていいですか？」

幸代が言った。

「あら、何かしら？」

「どうして、春田さんを雇ったんですか？

明るくてノリがよかったから彼女を採用した、と言う理由だけじゃないですよね？」

そう言った幸代に、
「あら、意外と鋭いのね」

由紀恵はフフッと笑った。