「そうだといいんだけど…」

由紀恵の不安そうな表情は消えなかった。

「コミュニケーション障害――いわゆる、コミュ障の反動がどこかで起こるんじゃないかと私は思うの。

子供の頃に抑圧されていたことが、時間とお金に余裕が出てきた大人になった時にそれから解放されて爆発する…みたいな」

そう言った由紀恵に、
「物欲の解放、と言うことですか?」

幸代は話をまとめると聞いた。

「まあ、そう言うことになるのかしらね」

由紀恵は呟くように返事をすると、ストローでアイスティーをかき混ぜた。

「何にも起こらないことを祈るしかないわね」

そう言った由紀恵に、
「そうですね、そうならないことを祈るしか他がないかも知れませんね」

幸代は首を縦に振ってうなずいた。

心の底から何も起こらないことを願う由紀恵と幸代だったが、2人が恐れているその事態は刻一刻と忍び寄ってきていた。