綾美とは夏休みが終わったのと同時に“友達”が終わったのだが、彼女との交流は続いていた。

交流と言っても、週に1回だけ電話やメールで近状を報告しあうだけである。

「望月さんが前を向いて歩いていることにホッとしています」

そう言った小夜子に、
「フフ、私も社長として嬉しいです」

由紀恵は言った。

「はあっ!?」

その会話をさえぎるように、大きな声が聞こえた。

「行けなくなったって、どう言うことなのよ!?」

声の方に視線を向けると、スマートフォンでどこかに電話をしている大学生くらいの女が1人いた。

彼女のそばにはキャリーバッグがあった。

その様子からして見ると、友達と一緒にどこかへ旅行する予定だったのだが、その友達に用事ができて一緒に行けなくなってしまったようだ。

「どうしろって言うのよ…。

キャンセル料は高いし…」

困っている彼女に、由紀恵は歩み寄った。

「もしよろしかったら、我が社を利用してみてはいかがでしょうか?」

由紀恵は笑顔で丁寧に言って、彼女に名刺を差し出した。