「豊。出かけてくるからな」


「あっ?わかった」



親父は機嫌が悪そうに、工場を後にした。


きっと、また頭を下げにどこかの会社に行ったんだろう。


毎日毎日、頭を下げて笑顔を振りまく親父。


そんな親父の背中に俺は何も感じない。


大好きだった背中から目を背けたのはいつの日だっただろう…――



親父の側で働く事にうんざりしていた。


汗と油まみれになる毎日が、何のためなのかわからない。


やめてしまいたい。


逃げ出してしまいたい。


何度そう思ったことか……


それでも、俺には行くところなんてないし、やりたい事もない。