あの家にいた時の……

あの工場で働いていた時の……


イライラの本当の理由。



それは、親父の大切なものを守れない自分に苛ついていた。


俺は何一つ守れねぇ。


その現実が痛かった。



「守ってやれよ。お前にはできるだろ?」


「俺には何かを守る力なんてない。」


俺は家族もカナも守れなかった。


守れないとわかってしまった。


そんな自分が嫌でたまらない。


あの頃のようにカナさえ、戻ってきてくれれば何かが見えるかもしれないと思っていたが、違った。


俺自身が変わらなければ、俺は本当にすべてを失ってしまいそうなんだ。



「豊。お前にはできる。」


「こんな俺に何が出来るって言うんだよ!!」



ほら、またこんな風に自分に対する苛立ちを他人にぶつけてしまう。


「最後まで親父さんの信念を見届けろ。親父さんと一緒にその信念を貫くんだよ。」


「一志さん……」


そんなことでいいのかよ?


そんなことで俺は守ったことになるのか?