time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~

豊と目が合ったわけではないのに、あたしの呼吸は苦しくなり始める。


視界に入った豊の姿が懐かしくて、悲しくて、あたしは息をするのさえ忘れてしまいそうだ。



「親父と上手くいかなくてよ。」


「そっか……昔からのわだかまりが取れてないんだ。」



昔を思い出しながら何気なく言った一言に、豊は勢いよくこちらを向いた。


ドキッ……―


目が合った瞬間に止まる呼吸。


高鳴る鼓動。


溢れ出す悲しみ。



「……覚えてるんだな。」



どうして寂しそうな顔ばかりするんだよ。


小さな声で囁いた豊の声があたしの脳を振るわせる。



「あたし、記憶力いいんだよ。豊と違ってな。」


あたしはなるべくおちゃらるように喋り、豊から視線を逸らした。



「そうだったか?俺の記憶では馬鹿だって認識なんだけど。」


豊もあたしに合わせ、いつもの無表情で言葉を続ける。


良かった。


あたし達は見せてはいけない。


お互いの心のうちを分かり合おうとしてはいけないんだ。