なんの変哲もない日常を過ごしていた。


過ごしていたというよりは、こなしていたと言ったほうがしっくり来るな。


「豊。今日は上がっていいぞ」


「あぁ」



だいぶ年をとったと感じる親父の背中を見つめながら、いくら洗っても落ちない手の汚れを一生懸命水で洗い流す。



“本田自動車”


俺の働く自動車整備工場の名前。


そして、この工場は親父が経営している。


変わりゆく時代の中で廃れてしまっているこの工場をなんとか立て直そうと必死になって働いているが、きっと親父のやり方では何も変わらない。



親父の側で働き始めてから3年…――



今ではそんなやり場のない気持ちを抱えながら毎日車をいじっていた。