店に入ると「何にする?」とカウンター越しにマスターが俺の顔を覗いてくる。
この位置から見ると、一目でこの店のマスターだってわかるんだけど、人ごみの中に紛れているとまるで別人に見える。
それはきっと表情のせいだろう。
「ビールで。」
「了解。今日はどうかしたのかい?この間より、沈んだ顔付きをしているように思えるから。」
店内は木目調に統一されていて、それらを包み込むように優しいライトが照らされている。
まるで、マスターのように……
「カナの居場所、知りませんか?店に行ったら辞めたって言われて。」
「カナが?やめた?」
ビールを置こうとしたマスターの手が止まる。
目をパチクリとさせ、いかにも驚いてますといった表情に、思わず笑ってしまいそうになった。
「急に辞めたとか言ってましたけど…。」
「そうか。驚いたよ。カナが店を辞めたなんてね。もっといい働き口が見つかったってとこだろうけど…――この通り俺は辞めた事すら知らなかったからね。カナの居場所もわからないな。申し訳ない。」
お前はマスターには気を許しているように見えたんだが、気のせいだったのかもしれないな。


