「ゆめかちゃん。中へ入ろう」
背後からかけられた声に、慌てて涙を拭った。
「部屋の中を見るのが楽しみだな」
クルっと浅葱のほうへと振り返ったあたしは今度こそ本当の笑顔を作る。
良かった……
夜の世界で働いていた事は無駄な事じゃなかった。
こんなふうに演技ができるようになったことだけでも、あたしにとっては大きな収穫。
「鍵、持ってもらっていい?」
最後の段ボールを抱えた浅葱はあたしにマンションの鍵を差し出した。
今度は微笑んで鍵を受け取るあたし。
その表情にホッとした顔を見せる浅葱はエレベーターに乗り込みボタンを押す。
数字がかかれたボタンが並ぶエレベーターのパネルは9階にランプがついていた。
9階建てのマンションの最上階。
一歩一歩確かめるように、部屋の中へと入っていった。


