「ゆめかちゃん?どうしたの?」
車から降りれずにいるあたしに浅葱は心配そうにあたしの視界に入ろうとする。
「あまりにも素敵なマンションだから……」
作り笑顔をしてみるけど、きっと今のあたしは笑えていない。
頬の辺りが引きつっているのを自分でも感じる。
「それなら良かった。僕は荷物を運んでるから」
明らかに態度が可笑しいあたしに深入りはしない浅葱は段ボールを抱え、マンションの中へと消えて行った。
恐る恐る車のドアを開け、コンクリートの道路に足をつける。
ドクン
その途端に心臓の脈を感じてしまう。
左側に首を回せば、豊と暮らしたアパートが……
そして、目の前には公園が……―
公園のほうをむいたまま、目を閉じた。
すると……
沢山のバイクが集まって、特攻服を着たみんながあたしに向かって声をかけてくれる。
そして、隣にはいつだってアイツがいた。
あたしを優しい手で包み込んでくれるアイツが……
今ここにいるかのように鮮明に蘇る記憶。


