「それは今を生きていないってことだな。もちろん未来も描けない」
その通り。
あたしは何も見えなくなってしまっている。
過去以外は……
「それじゃあ、駄目なのかな?」
カウンターの中での仕事がなくなったのか、文ちゃんは豊が座っていた席の隣に腰掛けた。
あたしとは一つ椅子を挟んで右隣に…――
「駄目かどうかなんて誰にも決められねぇよ。ただ、苦しくないか?どんな理由があるにしろ過去と向き合わない限り、その苦しみからは解放されねぇよな」
文ちゃんの問いかけにあたしは思わず涙が零れてしまいそうになる。
下唇を噛み締め、視線を上に向けた。
ここで涙を流してしまえば、あたしは駄目になる。
強く生きていけないような気がする。
「それは仕方ないかな?あたしは楽になっちゃいけない。楽になって、幸せを感じれば、きっと過去のことが薄れてゆくから。あの日の悲しみも誓いも忘れてしまうから。これでいいんだ」
そう…――
あたしは弱い人間なんだ。
だから、辛い記憶など簡単に忘れることができる。
だから、過去と向き合わない。
この苦しみは過去を忘れないための代償だから……


