叫べ、叫べ、大きく叫べ!


「あ、あははっ……そ、そんなわけないじゃん? ねえ?」


文香は助けを求めるように視線をこちらに向けてくる。

そんな彼女に私たちは笑みを向けるばかりだ。


なんて無情なのだろう。きっと隣の皐月もそう思ってるはず。だって私と同様、全然笑えてない。


心の中で謝りつつ、顔の表情は変えないでいると、真田くんがひとつため息を零しながら皐月の隣に座った。

一方、向かい側で寂しそうにストローを咥える文香の隣には真田くんと一緒に来た糸口くんが座った。


真田くんも糸口くんも相変わらず元気そうでなによりだ。

ちなみに2人とも同じ大学に通っている。


やっぱり私服のせいか、大人っぽく見える。なぜだろう。私の心臓、速い……。


大人に成長した彼らを目の前に思い耽っていると気を取り戻した文香が口を開いた。



「雅は来れそうって?」

「ああ。少し遅れるって言ってたけど来る気満々だったから多分もうすぐ……」


言葉を飲み込んだ真田くんの視線の先にはちょうど店内に入ってきた都波が居た。


心臓が速まったのはきっと久しぶりに見たからだと思うことにする。そうしたい。


近付いてくる彼もやっぱり大人びいていて“高校生の都波”とは違った。


……眼鏡のせいだ、きっと。

ものすごく生真面目な優等生って感じ。
髪の毛も黒に変わってるし、襟足長くないし……。


医大生になるとこんなにも違いが出てくるもんなのだろうか。


てかなんで私こんなに緊張してるんだろう。変なの。



「よっ!みんな元気そうじゃん!あ、アヤそこ俺座るから退いて」

「ハア!?」


つい都波を目で追ってしまったのは、彼は“彼”だったから。

全然変わらない。私に向けるその笑顔だって。きっと……。



「夏澄ちゃん久しぶり」


この優しい眼差しがなんだかくすぐったい。

ぎこちなく返すと嬉しそうに顔を綻ばせるからアイスコーヒーを口に運んだ。


少しほっと出来たのはこの苦味のお陰だろう。良かった。甘くなくて。今ので十分甘みが身に染みた。


都波はひとり注文を受け、ドリンクを取りに席を立つと、一気に肩の力が抜ける。

それを見逃さなかったのは皐月だった。



「ふふ、“相変わらず” だったね」


やれやれと笑う彼女に私も同調してみせると、斜めに移ってしまった文香も呆れながら「全くだ」と笑った。


ほんと、困っちゃう。
都波はいつまで私を想ってるつもりなのだろう。

別に迷惑とかじゃない。もう嫌いでもない。今は友人として好き。

この真っ直ぐすぎる気持ちは十分なくらい貰ってるし、むしろ貰いすぎてる。


ただ……。



「文香、ごめんね」


平然な顔持ちの彼女には謝らずにはいられなかった。