今年最後の屋上はやけに静かで、やけに温かくて、やけに泣きそうになる。
ドアノブにかける手が不思議と震えていて、不安が襲った。
……私ってこんなに寂しがり屋だったっけ。
振り向けばフェンス近くにいる半透明の彼がこちらに手を振っていて、私もそれに応えて再びドアと向かい合う。
もうあとは千木良くん自身の問題なんだから。私は見守ることぐらいしか出来ない。
自分を受け入れて、愛されてることを知って、待ってる人たちを信じて。
未だに眠り続ける本体は頑固みたいだから。それらを伝えるのは彼の役目。
信じてる。
ちゃんと戻ってくるって。
なのに、こんなにも怖い。
勝手に嫌な方へ考えてしまう。嫌なくせは未だに抜けないようだ。
ドアノブを握る手には力が入るばかりで捻り開けることも出来ずに、その場に立ち尽くす私は本当に臆病者にでもなってしまったみたい。
これで最期とか言わないよね? もう会えないとか無いよね? そんな事あるわけないよね?
視界が揺れる。鼓動が激しくなる。息が苦しい。
信じることがこんなに怖いなんて思わなかった。簡単なことなのに。
生と死の狭間にいる彼の方がよっぽど怖いと思うのに。なんで私がこんなに怖がっているの。おかしいでしょ。
早くここを出なきゃ。もうすぐ完全下校の時間になってしまう。
途端にチャイムが鳴り響いた。
それは何かの合図のようで。
強い風が背中を押す。
その勢いでドアノブを捻り開けた。
張り付くばっていた足は軽やかに一歩踏み出して、階段を降りていく。
タンタンタンとリズミカルに響く足音。聞こえは楽しそうだけれど、私の顔は歪んでいる。
不安はまだ解消されていない。でもそれが私を泣かせているわけじゃないのは確かで。
───『待ってて』
風とともに聞こえた彼の声。
それは不安すぎて信じるのが怖すぎて聞こえた幻なのかもしれない。
だけど私の耳には確かにそう届いたんだ。
彼がそう言ってるんだ。ちゃんと戻ってくるって。待っててって。
怖いけど、希望は捨てちゃいけない。大切な人を信じないでどうする。
目元に残る潤いを指で拭いとった。
校舎を出ると部活を終えた生徒なのか、私のように何か訳あって残っていた生徒がチラホラと見かけられた。
見上げた空はすっかり夜色だ。星は多くは見られない。強いていえば歩くたんびに付いてくる一番星くらい。
マフラーを巻き直し、家を目指して歩き出した私の表情は今までで一番穏やかかもしれない。
目元が赤いのは除いて。
きっと彼を想う気持ちが私を強くしてくれているんだ。
ふと笑みを零すと一番星が煌めいた気がした。まるで「そうだよ」と励ましているみたいに───。



