「千木良 空牙の バカあああーーーーーっ」
声を張り上げれば当然のように肩を上下にさせた。それでも呼吸を整えることもせず言葉続ける。
「いつまで寝てるんだあああーーーーっ 名前 で呼んで欲しかったら、さっさと起きろおおおーーーーっ」
声が絞り取れそうなくらい張り上げて、吐き出した声はきっとこの辺にいる誰かには届いているだろう。
さっきまで私と彼だけの世界だったあの静けさはもうない。
元気な子どもの声や車の音、踏み切りの音、信号機が青に切り替わって鳴る音が微かだけど聞こえる。
そして上の方からも微かに戸惑いの声を上げている彼の声も聞こえた。
柄にもなくこんなにも張り上げた私の声はあの情けない声よりハッキリと大きく響いていた。
ムカついた勢いだったからか恥ずかしさはあまりない。ドキドキはしているものの顔に熱は集まってなくて、身体が火照っている。
ああ、後で絶対後悔するやつだこれ。
それでも止めなかったのはヤケクソ状態でいるからなのだけれど、結構本心から飛び出た言葉たちは私のムカムカを抑えてくれているみたいで。
この勢いでなんでも言えちゃう気がしたから。
「私は いまああーーっ ものすごく 幸せええーーーーーっ」
なんて結構恥ずかしげのある言葉を叫んでしまった。
でも、本当に幸せなんだ。
大好きな人たちに囲まれて、大好きなこの街にいられて、私は今物凄く幸せ。
こんな未来があるなんて以前の私には思わなかったし、諦めてた。
ずっと家族の仲は悪くて、家の中は暗いままで、美味しいけど美味しくないカレーを食べ続けて、
私はひとりぼっちで、無表情なままで、たくさんの感情を身に付けないまま大人になっていく。
友達もゼロ、恋愛も結婚もせず、独りで生きていくとばかり描いていたあの頃の私はもういない。
明日も未来も諦めて、望みもしなかった私だったけど、今は真っ直ぐ前を見て大切な日々が来るのを楽しみに待ち望んでいる。
そう。全ては大切な友達が教えてくれたこと。都波に出会わなかったらこんな明るい未来はなかったかもしれない。文香、皐月と親友になれて、真田くん、糸口くんとも友達になれて。
友達の温かさをしっかり触れて、たくさんの感情を取り戻した。
それから、千木良くんとも出会って。
はじめて、恋を知った。



