確かに街中の音は聞こえない。とても静か。こんな静けさは朝早く登校した時よりもっと音がない。
本当に私と彼だけの世界になってしまったみたい。まだ怪しんではいるけど。
頬を撫でる風は穏やかで冷たい。
もう一度彼を横目で見る。早くと口パクをされた。
わかったよと小さく息をつけば、自然と手に汗を握りだし、緊張と嫌気と恥ずかしさが同時に自分を攻め立てる。
それでも今この瞬間、この空間は私と彼だけの世界。
それが最高潮になる前に、思い切り息を吸って、未だに眠り続けているであろう彼にも届くように、声を張り上げた。
やっぱり恥ずかしいくらい情けない声だった。
叫び終わった瞬間、みるみる顔中に熱が集まってきて、息も上がって、これでいいでしょと隣にいる彼を見ると信じられない言葉が返ってきた。
「名前で呼んで欲しかったから、もっかい」
あのさ。見てたよね? 私の頑張り見てたよね? もう良くないですか? 誰も聞いてないからといってやっぱ恥ずかしいもんは恥ずかしい。
もう恥ずか死ぬ……。
「恥ずか死ぬなよ。俺しか聞いてないのに」
「それも本当は嫌なの。言ったでしょ。“誰も居ない空間で叫びたい”って。1人がいいの。千木良くんがいると言いたいことも言えない」
「へぇ……俺いると言えない内容なんだ?」
「そうですー。だから本当は1人がいい。そしたら心のままに叫べる」
「てかそれ、逆に気になるんだけど」
頬が緩みだす彼は楽しそうに私を見る。
だから逃げた。
それも半ば怒りをあらわにさせながら。
梯子をおりて大股に近付いた先のフェンスを掴み取る。感情のままに掴んだせいかカシャンと大きくそれが揺れた。



