叫べ、叫べ、大きく叫べ!


彼と同じように肩を並べて真っ直ぐ前を向く。


やっぱり綺麗な景色がそこにはあった。



「この街ってこんなに綺麗だったんだね」

「うん。あの辺の雲の隙間から出てる光とか物凄く、」

「スポットライト」

「あ、うん。でも俺的には天使が舞い降りてきそうな感じに見える」

「もうちょっと共感してくれてもいいじゃん。てか、千木良くんて意外とロマンチストなんだね。確かに天使が舞い降りてきそうな感じする差し込み方だね」

「……香澄って意外と意地悪いよな」


小さくため息なんか零された彼に首を傾げる。


意地悪い? なんで。今わたし何かしたっけ?


思いのほか視線が絡み合った時間が長かったようで先に逸らした彼は再び目の前の景色に目を向けた。私も追うように向ける。


先程より暗い世界に『今何時なんだろう』と頭の片隅に思う。


パフーとお豆腐屋さんのラッパ音が聞こえた。


何となく黄昏時なんだろうなと思えたのは、雲の隙間から零れた白い光はオレンジ色へと塗り替えられていたからだ。



「なあ、香澄」

「ん?」

「俺の名前叫んでよ」

「は、ハア?」


急に呼んだかと思えば『俺の名前叫んで』って……。なに言ってんだか。


私もうあんな恥ずかしい思いするの嫌だよ。聞いてたんでしょ。それなのにもう一度叫べとか鬼ですか。



「もう叫びたくない。恥ずかしいもん。叫ぶなら誰も居なくて私だけの空間がいい」

「……誰も居ない空間、ね」


チラッと私を見たあと、彼は少し考え込んでからパチンと両手を合わせた。


私には音なんて何も聞こえなかったけど……。



「はい。今俺と香澄だけの空間にしました」

「え、嘘だ。千木良くんの叩いた音聞こえなかったし。それに他の音だって聞こえ──あれ?」

「な。聞こえないだろ? 今俺と香澄だけだよ」

「……えぇ、本当? ……怪しすぎる。千木良くんにこんな能力なんてあったっけ?」

「あった。ただ使う相手がいなかっただけ。大成功ってことで。ほら、香澄。俺の名前、叫んでよ」


あまり時間ないからと急かす彼に顔をしかめつつ、前を見据えた。