「どう? 叫んだ感想は。スッキリした?」
「なわけない。スッキリより恥ずかしいが勝った。千木良くんを信じた私が馬鹿だった……はぁ」
すっかり笑い収まった彼は涼しげな顔で私を見下ろしている。そんな彼を未だに紅潮する熱さが冷めきらず立ち上がれない私は顔だけを彼に向ける。
本当、彼を信じた私が馬鹿だった。私の不安は的中だったわけだ。そもそも千木良くんが叫んだ場所と私の場所は次元が違いすぎる。
あーなんでこんな所で叫んでしまったんだぁ……私の声この街中に聞こえてたってことじゃん……ああ……やだ。考えたくも、思い出したくもない。
「あんなのじゃスッキリするわけないじゃん」
「あんなのって言わないでよ。あれ以外思いつかなかったんだから。あれが私の精一杯な叫びだよ」
そう。あれ以外言葉なんて思いつかなかった。ぐちゃぐちゃな心を持っているわけでもないし。以前なら汚い言葉でもなんでも吐き出せてたかもしれないけれど。
私にとって“叫ぶ”ことは、心の中に溜まった汚いものを吐き出すことしか考えてなかった。
嫌な夢をみたり、望まない罵声を浴びせられたり、何の取り柄も無い自分に嫌気がさしたり、生きている意味が無いなんて思った自分を解放したくて。
そんな汚い感情を心のままに吐き出せば少しは自分らしさが取り戻せるんじゃないかって、明るくなれるかもって、スッキリすると思ってた。
現状はそんな声を張る勇気も気力もないからただ空を眺めて心の中で吐き溜めるばかり。当時の私になんて“叫ぶ”ことにメリットなんかあるわけないと思った。
だけど、『今』はどうだろう。
“叫ぶ=汚い感情を吐き出す”
そんな公式なんてあるのだろうか。
「思ったままに叫べばいいんだよ」
微かに笑みを含んだ柔らかな声は宙に溶けていくように、私の心の中にも染み込んだ。



