俺なんかといるより、アイツの傍にいた方が香澄は幸せになれる。
俺は気持ち悪い。気味が悪い。怖い。俺がいるから家族が暗い。怯えた顔。伺うような目つき。みんなして俺を拒否して、白い目を向けるばかり。
きっと俺がいるからいけないんだ。俺がいるから幸せになれない。俺はみんなに不幸をもたらしているのかもしれない。だったら俺なんかいなきゃいい。
俺なんか最初からいないことにすれば――。
香澄と目が合ったのはそう思った瞬間にだ。視界も定まっていない俺は彼女の表情なんて分かるはずもなかった。
だけど、アイツと一緒にいるってことはそういう事。手も繋いでたし。つまりふたりは……。
胸の苦しさがスゥと引いた。彼女が幸せならそれでいいと思えたから。
そして、意識が途絶えた……――。
この時に固く願った意思のおかげで現在こんなにも困っているなんて笑えてくる話だ。
もう一度眠る自分に触れようと手を伸ばす。やっぱり弾き返されてしまった。軽く鼻で笑った。
「あの時『死にたい』なんて『消えたい』なんて願わなかったら……なんて後悔しても遅せぇか。仕方ないよなぁ、そん時は本気で思ったしな。……でもどうよ。あんなに願ってそれが叶うかもしれないってのに“俺”はいま物凄く『生きたい』って思ってる。……ハッ。話が違うって? そりゃ人間だし。考えが咄嗟に切り替わる時はいつだって有り得るからな」
リズム良く鳴る心音に耳を傾けながら、再び手を伸ばす。バチッと間に小さな火花を放つけれど無視した手は真っ直ぐ自分へと伸ばしていく。
何度も弾き返される感覚に圧されるけれど構わず己の意志のままに突き進んでいくと頬を掠めた。触れた感覚なんてないけれど、確かに触れられた。
それと微かに反発力が弱まった気がした。だから触れることが出来たのかもしれない。そう思いつつ更に“俺”を戻そうと近付く。けれどいちばん肝心な足元に繋がっている1本の白い糸が薄いままであることは変わりない。
これは本体の意思が弱いことを示している証拠でもあるわけで……。
「はあ、仕方ない。今日はここまでにしとくか。絶対戻ってやるからな。何度だってしつこく来てやる。拒否できないくらい近付いてやる。俺は独りじゃないんだ。俺は俺なんだから。絶対“俺”をこの体に戻してくれる。そしてお前もちゃんと目を覚ますよ。『生きたい』と思うほどに」
大丈夫。絶対“俺”は元に戻る。戻させる。生きてみせる。
真実と初めて触れて向き合った今だから、眠る自分は戸惑っているだけなんだ。“俺”だって戸惑った。
俺はみんなの本当の感情に触れた。だから信じてみようと思えた。
お前は肌で知ればいい。ゆっくり。たくさんの愛を感じろよ。お前はちゃんと愛されてたって。家族は容赦無く伝えてくるから。
――ピピッ
心電図の波が一部大きく上がった。
これは“俺”に挑発をしているのか。それとも覚悟を決めたのか。
どちらにせよ、時間をかけて思い知らせてやる。
目を覚ました暁にはきっと、俺は俺のままでいいのだと、生きている喜びに身に染みて、愛する人とともに笑いあっているはずだから……―――。



